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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2681号 判決

原告

田中善朗

ほか一名

被告

小林茂

ほか一名

主文

被告らは、原告らそれぞれに対し、金六三五万五〇七八円及びこれに対する昭和六二年二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一(当事者の求める裁判)

一(請求の趣旨)

1  被告らは、原告らそれぞれに対し、二〇四三万二四七四円及び右各金員に対する昭和六二年二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二(当事者の主張)

一(請求の原因)

1  原告らの二男田中大成(以下「大成」という。)、麻生博久、日高章博及び石井勉は、次の交通事故により、いずれも頭蓋内損傷等により死亡した。

(一)  発生日時 昭和六二年二月一五日午前八時二五分頃

(二)  発生場所 東京都世田谷区南烏山三丁目一三番二一号先甲州街道上(以下「本件事故現場」という。)

(三)  加害車両 普通乗用車足立五五わ五三二三(以下「小林車」という。)

(四)  加害車の運転者 小林有宜也

(五)  事故態様 小林は、前記の被害者四名(以下まとめていうときは「本件被害者四名」という、他にもう一名同乗者がいた。)を加害車に同乗させ、東京都世田谷区南烏山三丁目一三番二一号先甲州街道上り車線を走行中、左前方を走行中の訴外宮脇ひろみ運転の乗用車(以下「宮脇車」という。)を追い越そうとして、小林車を宮脇紗の右側面に接触させ、急いで右にハンドルを切つたため、小林車をセンターラインを越えて下り対向車線に逸走させ、同車線を直進中の石阪正男運転の普通貨物自動車に小林車を正面衝突させたものである(以下「本件事故」という。)。このため小林車は大破し、大成を含む乗員全員が死亡した。

(六)  大成の死亡日時 昭和六二年二月一五日午前九時三〇分

2  小林は、小林車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文に基づき、原告らに対し本件事故により生じた後記損害を賠償すべき責任を負つたものである。

3  原告らは大成の父母であつて、その権利・義務を二分の一ずつ相続した。

4  本件事故による原告らの損害(相続分を含む)は、次のとおりである。

(一)  逸失利益 四二九二万八七四九円(各二分の一)

大成は、昭和四三年一〇月二四日生の男子で、死亡により、逸失した利益は、次の点を考慮して算出されるべきである。

(イ)  本件事故時の年令・学歴 一八才、東京都立九段高校(定時制)三年在学(昭和六三年三月卒業予定)

(ロ)  就労可能年数 一九才から六七才まで四八年

(ハ)  年間の平均収入 四一五万五八〇〇円(昭和六一年度賃金センサス・高卒全年齢平均)

(ニ)  ライプニッツ係数 一八・一六八七―〇・九五二三

(ホ)  生活費割合 四〇パーセント

(二)  慰藉料 二〇〇〇万円(各二分の一)

大成は、株式会社田中商会(電通・博報堂の直請け会社)の代表取締役である原告田中善朗の後継者となることが決まつていた。原告らが大成に寄せる期待には絶大なものがあり、それだけに本件事故に遭遇し一瞬にして若い生命を失うに至つたことは、大成本人の無念さはもとより原告らの精神的苦痛には筆舌に尽し難いものがある。したがつて、同原告らの固有の慰藉料及び大成の慰藉料を合わせ各一〇〇〇万円が相当である。

(三)  葬儀・仏具費用 一〇〇万円(各二分の一)

原告らは、右の費用として一〇〇万円を超える金員を二分の一ずつ負担して支払つたが、うち一〇〇万円を請求する。

(四)  弁護士費用 二〇〇万円(各二分の一)

原告らは、本件訴訟の提起・追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任し、その手数料及び報酬を支払う旨約したが、そのうち被告らが負担すべき分は二〇〇万円を下らない。

(五)  損害の填補 二五〇六万三八〇〇円

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から本件事故による損害の填補として二五〇六万三八〇〇円の支払を受けた。

(六)  請求額 四〇八六万四九四八円(原告ら二分の一ずつ)

5  被告らは、小林有宜也の父母であり、同人の権利義務を二分の一ずつ相続した。

6  よつて、原告らはそれぞれ被告らに対し、本件事故に基づく損害賠償として、二〇四三万二四七四円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和六二年二月一六日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二(答弁)

請求原因1の事実は認める。同2は否認する。同3の事実は不知。同4の事実のうち(五)の事実は認めるが、その余の事実は不知。同5の事実は認める。

三(抗弁)

1(一)  本件事故は、バレンタインデーに湘南地方へのドライブの帰路発生したものである(以下このドライブを「本件ドライブ」という。)。

本件ドライブの参加者は、大成、石井、麻生、小林、藤山、日高、小川和子、坂本、熊崎、及び宮脇ひろみの外一三名、合計二三名である。このうち、小林、麻生、日高、石井、及び大成は、中学校の同級生であり、日高と小川は恋人同士であり、藤山、石井及び大成は、九段高校の同級生であり、また藤山、宮脇及び坂本は中学校の同級生である。本件ドライブに参加した二三名は、いずれもドライブ好きの者ばかりであり、本件ドライブに積極的に参加したものである。本件ドライブの具体的な計画は、その二、三週間位前から練られたが、二三名のうち運転免許を持つていた五名の中で、小林、宮脇、坂本、熊崎の四名が一台ずつ計四台の車を運転して行くこととなつた。そして、宮脇がその所有の宮脇車(普通小型自動車・マツダフアミリア)を、熊崎が自宅の九人乗りのワゴンを運転することとなつたが、他の二台はレンタカーを使用することになつた。本件ドライブの行程については、小林車と坂本車と熊崎車の三台が昭和六二年二月一四日午後九時過ぎころ、九段高校の前に集合することとし、その後三台で大成の自宅へ寄り、ステツカー等で各々の車に装飾を施し、さらにその後首都高速道路を通つて東京都杉並区高井戸へ行き、そこで同日午後一二時ころに宮脇車と合流することとし、そこからは、車四台を連ねて環状八号線(玉川通り)を通り、第三京浜、横浜新道を抜けて国道一号線に入つて、湘南海岸へ行く予定を立てたのである。そして、本件ドライブは当初より徹夜で行うという計画であり、基本的には、運転者は交代せず、一人で運転し続けるというものであつた。

(二)(1)  本件ドライブは高井戸を同月一五日午前零時ころ出発し、湘南海岸まで前記の経路で片道約五〇キロメートルの往路を約二時間で走行しているがこの間の渋滞、信号による停止時間を考えれば、実際の走行速度は制限速度である毎時五〇キロメートルを遥かに超えていた。

また、帰路は、同月一五日午前五時ころ湘南海岸を出発し、東京都調布市近くの甲州街道沿いにあるフアミリーレストランロイヤルホストまで約三時間かけて走行しているが、途中道に迷つたこと等を考えると、往路と同じように場所によつてはかなりのスピードで走行していたといえる。

(2) 本件ドライブに加わつた各車のボンネツト等に派手なステツカーを貼り、また、麻生と石井は、ジヤンパーの下にさらしを巻き九段高校から木刀を持ち出し、これを携行する等暴走族の集団に特徴的な行動をしており、ドライブ参加者は、スピードを出してスリルを楽しむ傾向があつたのである。

(3) 本件ドライブは、全行程を一人で運転するにはかなり無理なものであるうえ、小林は途中仮眠も十分な休息もとらなかつたものであり、小林車の同乗者はそのことを知つていた。

(4) 小林車には本件事故当時定員オーバーの六名が乗車していたが、小林車が排気量一三〇〇ccの小型車(トヨタスターレツト)であつたことを考えれば、車の安全性、制動操作、ハンドル操作等に支障をきたしうる高度の危険性があつたというべきである。

(三)  以上の事実関係によれば、本件事故の原因は、(1)本件ドライブが、計画自体に無理のあるものであり、小林車の運転者である小林に非常に大きな負担を与え、小林を疲労させるものであつたこと、(2)小林車の同乗者全員に危険なスピードを楽しむ雰囲気があつたこと、(3)小林車に定員を超えて大成らが乗車したこと等にあるのであり、これら本件事故の原因となつた事実は、すべて大成ら被害者の知つていた事実である。したがつて、大成は小林の運行に直接または間接に関与していると同時に本件事故自体に直接または間接に関与していたといえるのであり、過失相殺として原告らの損害の五〇パーセントが減額されるべきである。

2(一)  原告らは、千代田火災海上保険株式会社(以下「千代田火災」という。)から一五〇〇万円の搭乗者傷害保険による支払と安田火災海上保険株式会社(以下「安田火災」という。)から五〇〇万円のドライバー保険に付帯された搭乗者傷害保険金の支払を受けた。

(二)  搭乗車傷害保険は、現行の自賠責保険では、直接の加害行為者である運転者及び当該自動車保有者自身の搭乗中の傷害危険は担保されず、また、自動車保険の対人賠償責任保険においても右の者の外、被保険者と一定の生活関係を有する搭乗者の損害は担保されず、搭乗者の保護に十分でないため、これら自賠責保険及び自動車保険の機能しない面あるいは不足する部分を補完するものとして設けられた保険であり、損害填補としての機能を有するものである。

搭乗者傷害保険は、定額給付保険とされている点で生命保険に類似するが、これとは異なり保険料の負担者は運転者(加害者)であり、右保険金が支払われたとき、これを損害の填補とみることは、加害者に不測の利益を与え、被害者の保護を薄くするということはできない。むしろ右保険は実質的には被害者の損害を填補する機能を有しており、本件においても、右保険の各給付額は、原告らへの損害賠償額から控除されるべきである。

(三)  仮に、右保険金が損害額から当然に控除されないとしても、損害額の減額事由として考慮されるべきである。

搭乗者傷害保険が付さている場合には、当該車両に同乗する者は、安心して積極的に乗車するのが通常であり、また、本件のように右各保険の保険料を運転者の小林有宜也が負担しているような場合は、運転者の同乗者に対する利他性はその限りで強められているといえるから、衡平の観点からすれば、本件事故の被害者らの好意・無償同乗の好意性・無償性をより高めるものと評価できるからである。

また、搭乗者傷害保険の保険金の給付は、本件加害者たる小林有宜也が前記保険会社と締結した搭乗者のためにする契約に基づくものであるから、原告らの慰藉料額の算定に当たつて減額事由とされてしかるべきである。

四(抗弁についての原告らの認否)

1  抗弁1(一)の事実は認める。同(二) (1)の事実のうち本件ドライブ往路の高井戸の出発時刻、湘南海岸までの経路、距離、帰路の同海岸の出発時刻、ロイヤルホストまでの経路は認めるが、その余の事実は争う。同(2)ないし(4)の事実のうち本件ドライブに加わつた各車のボンネツト等にステツカーが貼られていたこと、小林車に本件事故当時定員を超える六名が乗車していたことは認めるが、その余の事実は争う。同(三)の事実及び主張は争う。

2  抗弁2(一)の事実は認めるが、同(二)及び(三)の主張は争う。

第三(証拠関係)

証拠関係は、本件記録の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1及び5の事実はいずれも当事者間に争いがなく、真正に成立したことについて当事者間に争いがない甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、同3の事実を認めることができる。右事実によれば、小林は、小林車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条本文に基づき、原告らに対し、本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務を負つたものというべきであり、被告らが二分の一ずつ右義務を承継したものというべきである。

二1  前掲甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、大成は、昭和四三年一〇月二四日生れで、本件事故当時健康で東京都立九段高校(以下「九段高校」という。)定時制三年に在学中であり、昭和六三年三月卒業予定であつたとの事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、大成の得べかりし利益の本件事故当時における現価は賃金センサス昭和六一年第一巻第一表の産業計・企業規模計・男子新高卒全年齢平均の年収額四一五万五八〇〇円を基準とし、就労可能期間を一九歳から六七歳までの四八年間とし、生活費として収入の五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合により中間利息を控除して算定するのが相当であるから、右得べかりし利益の現価は、三五七七万三九五七円となる。

2  弁論の全趣旨によると、大成及びその両親である原告らが、本件事故により大成が死亡したことにより、精神的苦痛を被つたことを認めることができ、特段の事情のない限り、この苦痛を慰藉するためには大成及び原告らにつき合計一五〇〇万円程度の慰藉料をもつてするのが相当である。

しかしながら、(一)本件においては、後記のとおり、本件事故による大成の死亡に基づき、原告らに対し、千代田火災から搭乗者傷害保険金一五〇〇万円、安田火災から搭乗者傷害保険金五〇〇万円合計二〇〇〇万円が支払われていることは、当事者間に争いがなく、真正に成立したことにつき当事者間に争いがない乙第九号証及び同第一〇号証によると、右のうち安田火災が保険者である搭乗者傷害保険は、小林が、自己及び自己の運転する小林車に搭乗することあるべき第三者のために締結した保険契約であり、また、真正に成立したことにつき当事者間に争いがない甲第五号証の、一二によると、右のうち千代田火災が保険者である搭乗車傷害保険は、形式的な保険契約者が必ずしも明らかではないが、小林が小林車を株式会社トヨタレンタリース東京から貸借するに当たり、同社に保険料の支払をしていることが認められるから(なお、この保険料を小林車の同乗者が分担したことを認めるに足りる証拠はない。)、実質的には小林が保険契約者であると認めるのが相当であるところ、小林が第三者のために搭乗者傷害保険契約を締結したのは、自己の運転する自動車又は小林車に搭乗するに至る第三者に対し傷害を加えることのありうべきことを予定し、この第三者に現に傷害を加え、これに保険金が支払われるときには、この第三者に対する見舞金とするためであると解するのが、小林の合理的意思であると推認するのが相当であるといえること、(二)前示のように大成は小林と中学校以来の友人であり、また、後記のとおり大成は本件ドライブの終り近くロイヤルホストを出る際に小林車にその定員を超えて乗車したものであること等本件に顕われた一切の事情を考慮すると、本件事故による大成の死亡に基づく同人及びその両親である原告らの精神的苦痛は、前記保険金を受領したことによつて慰藉されたものと認めるのが相当である。したがつて、原告らの被告らに対する慰藉料請求は理由がないものというべきである。

3  弁論の全趣旨によれば、原告らが大成の葬儀費用及び仏具費用として、合計一〇〇万円を超える支出をしたことが認められるが、本件事故と相当因果関係があるものとして被告らが賠償すべき額は、合計一〇〇万円と認めるのが相当である。

四  次に被告らの抗弁について判断する。

1(一)  抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがない。また、本件ドライブは、東京都杉並区高井戸を昭和六二年二月一五日午前零時ころ出発し、環状八号線(玉川通り)を通り、第三京浜、横浜新道を抜けて国道一号線に入つて同日午前二時ころ湘南海岸に到着し、その間の走行距離は約五〇キロメートルであつたこと、帰路は、同日午前五時ころ同海岸を出発し、前記経路の逆を通り東京都調布市近くの甲州街道沿いにあるフアミリーレストラン・ロイヤルホストに至つたこと、本件ドライブに加つた各車のボンネツト等にステツカーが貼られていたこと、小林車に本件事故当時定員を超える六名が乗車していたことも当事者間に争いがない。

(二)  証人藤山貴浩及び同宮脇ひろみの各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、(1)本件事故は、小林が、小林車を運転し、本件事故現場付近の道路についての最高速度の規制が毎時五〇キロメートルであるにもかかわらず、毎時六〇キロメートルで走行していた宮脇車の速度をかなり上回る速度でその右側から追い越そうとして並行状態になつた際にハンドル操作を誤つて請求原因1(五)のような態様(この点は争いがない。)で惹起させたものであること、(2)小林は、九段高校を出発した昭和六二年二月一四日午後九時過ころから本件事故時の同月一五日午前八時二五分ころまでの深夜早朝を含む約一一時間のうち、湘南海岸に到着した同日午前二時ころから同海岸を出発した同日午前五時までの約三時間と前示のロイヤルホストで本件ドライブの参加者とともに飲物を飲んで休息をとつた約一時間とを除いたほかは、仮眠をとらず、また、小林車の同乗者に運転免許を有する者いなかつたため、終始小林車の運転を続けたこと、本件事故はロイヤルホストを出てから僅か一〇分足らず後に発生したものであること、小林車に定員を超える六名が乗車したのは右ロイヤルホストを出る際大成が乗車するに至つたからであり、小林及び石井を除く四名は後部座席に乗車したこと、小林は本件事故当時一八歳であつたことを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  被告らは、本件ドライブは、計画自体に無理のあるものであり、小林に大きな負担を与え、同人を疲労させるものであつたこと、小林車の同乗者全員に危険なスピードを楽しむ雰囲気があつたこと、小林車に同乗者が定員を超えて乗り込んだこと等が本件事故の原因であり、本件被害者四名はこれらの事実を知つていた旨主張する。しかしながら、前認定のとおり、小林は、本件事故当時一八歳であつて疲労からの回復が早い年ごろであり、本件事故は、ロイヤルホストで約一時間休息をとつた直後の事故であること、本件ドライブは往復一〇〇キロメートル程度に過ぎないことを考えると、小林が小林車を始終運転していたこと、本件ドライブが深夜から早朝にかけてのものであつたことを斟酌しても、本件事故が小林の疲労に起因するものであるとは認め難い。また、小林車の乗員に危険なスピードを楽しむ雰囲気のあつたことや小林車に定員を超える六名が乗車したことが本件事故の一因であつことを断定するに足りる証拠はない。したがつて、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

2  抗弁2(一)の事実は、当事者間に争いがない。しかし、被告らは、その主張に係る搭乗者傷害保険につき、保険契約(約款)上、責任保険とされているとか、保険者が、被保険者に右保険金を支払つたときには、被害者たる被保険者の加害者に対する損害賠償債権を代位取得し、その結果被害者が右債権を喪失するとされているとか等保険者の被害者に対する保険金の支払が被害者の右損害賠償債権の消滅原因となる旨の約定(条項)の存していたことを主張・立証していない。したがつて、原告らに抗弁2(一)の保険金が支払われた事実によつて、原告らの被告らに対する本件事故に基づく損害賠償債権が消滅するものとはいえない。この点についての被告らの抗弁は理由がない。

五  弁論の全趣旨によると、原告らが、被告らに対する本件事故に基づく損害賠償債権につき任意の覆行を得られなかつたため、原告ら訴訟代理人弁護士らに対し本件訴訟の提起及び追行を委任し、手数料及び報酬の支払を約したことを認めることができるところ、本件事案の性格、認容額、本件の難易等に鑑みると、本件事故と相当因果関係があるものとして被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用は、一〇〇万円と認めるのが相当である。

六  原告らが、請求原因4(五)のとおり、自賠責保険金の支払を受けたことは、前示のように当事者間に争いがない。

七  以上認定したところによると、被告らは、原告らそれぞれに対し六三五万五〇七八円及び右各金員について本件事故の日より後である昭和六二年二月一六日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告らの本訴各請求を右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九二条、九三条を仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸)

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